47都道府ケンミン・焼ビーフンプロジェクト

いつもあつあつの白ごはんがあるからこそ。〜長い冬からうまれた秋田の発酵文化〜

いつもあつあつの白ごはんがあるからこそ。〜長い冬からうまれた秋田の発酵文化〜

文:小倉なおこ(なりわいカンパニー)
写真:秋田白神食品ご提供

「47都道府ケンミン焼ビーフン」プロジェクトの第4弾は「秋田ケンミン焼ビーフン」。「秋田といえば! という食材とビーフンを合わせて、秋田のみなさんに楽しんでもらいたい」と、開発を担当する岡本の食材探しの日々が始まりました。

きりたんぽやいぶりがっこ、しょっつるや比内地鶏。様々な食材を取り寄せては試作を繰り返す中、たどり着いたのはしょっつる、いぶりがっこ、ビーフンの組み合わせ。

ただ同じいぶりがっこといえども商品によって食感も味も全然違うことに気がついた岡本が「これならビーフンと合うのでは?!」と選んだのは、秋田白神食品さんのいぶりがっこでした。どうしてこんなに違うものなの?そもそもいぶりがっこって、秋田にとってどんな存在なんだろう?そんな話を秋田白神食品の荒谷さんに伺いました。


「どこかに、おふくろが小さいころから食べさせてくれた感覚があるんだろうね」(荒谷さん

岡本: 色んないぶりがっこを食べているんですが、それぞれ食感や味、薫りが全然違うんですね。甘いものがあったり、しょっぱいものがあったり。酸味の強いものもあれば、マイルドなものもあって。ガツンと燻製の薫りが強いものもありました。

いぶりがっこ生産者荒谷さん(以下、敬称略): あぁ、そうですね。

岡本: 荒谷さんのいぶりがっこは、何よりパリパリッとした食感がめちゃくちゃ印象的で。

荒谷: それは良かったです。私は、食べ物を口に入れた時に、一番はじめに脳が判断するのが「食感」だと勝手に思っていまして。味よりもまず先にね。だから食感にはすごくこだわっているんです。その年できた大根がどういう大根かをまず見るんですよ。大根の見極めをして、食感の出し方を調整していきます。

岡本: 食感の調整ですか。

荒谷: そう。いぶりがっこをつくる中では、燻し作業が食感にものすごく作用するんです。歯切れが良いっていうのかな。漬物では難しいんだけどね、それを出すためにどこまで燻すかですよね。温度と時間と。燻しすぎると中まで固くなってしまうし。最初はいぶし小屋を建てて手探りではじめたんですが、売りに出せるようになるには3年くらいかかりましたね。最初の年は、10トン漬け込んだけど発酵がうまくいかなくてね。こりゃダメだと思って、樽全部捨ててしまったりね。

大根を燻すための火を準備中。

荒谷: 最初は全然うまくいきませんでした。それから、味も色々と試しましたよ。樽ごとに配合を変えてね。でもね、今のこの味ができたのは偶然で。この樽とこの樽が美味しいから、掛け合わせてみようといって混ぜてみたり。並塩(安い塩)からミネラル豊富な塩に変えてみたり、糠の配合を変えてみたりね。それを今度濃縮してみたら、どういうわけだか一番いいのができたんだよね。

岡本: どういうわけだか。はあぁ、案外そういうもんなのかもしれないですね。荒谷さんは、昔からいぶりがっこをよく食べていたんですか?

荒谷: いえいえ。いぶりがっこを食べる習慣があるのは、秋田県でも県南(山形に近い地域)の方で。私らの住んでいる県北(秋田市より北の地域)では「なた漬け」というべったら漬けのようなものを昔から食べていたんですよ。

岡本: なた漬けですか。

荒谷: おふくろ大根っていう上下が細くて真ん中がふくらんでいる大根があるんだけどね。それをなたでザクザクと削っていくの。そうすると味が染みやすいんだよね。断面がザラザラになるから。それを麹と氷砂糖で漬けて食べるのが県北の習慣でね。私の家でも、冬になればおふくろが保存食として樽さ1つ、2つは作っていてね。よく近所の人と味比べなんかしてましたよ。

岡本: 家ごとに味が違うんですか。

荒谷: あぁ、全然違いましたね。家によって、そのうちの味があってね。「あっちの方が美味しい」とか「あれはしょっぱすぎて食べれんわ」とかなんとか、よく言ってましたよ。なた漬けは浅漬けだから、加工してお店で売るようなものじゃなくてね。みんな家で作るものなんだよね。

岡本: 荒谷さんのいぶりがっこは、燻製の薫りがありつつほんのり甘い味がしました。燻製の薫りがもっと強いものや、酸味が強いものもあったんですが、荒谷さんのは、浅漬けでつくるなた漬けに近いのかもしれないですね。

荒谷: うーん。どこかに、おふくろが小さいころから食べさせてくれた感覚があるんだろうね。

岡本: あぁ、そうですね。お話を聞いていて、荒谷さんのいぶりがっこも、荒谷さんがこれまで生きてきた、食べてきた感覚でつくられているんだろうなぁと。

荒谷: そうだね。私は経験をしていないなかで、10年前からいぶりがっこをつくりはじめたんです。いぶりがっこを昔から食べている人なんかには「もっと味が濃ぐないと」とか「しょっぱぐないと」とか言われることもありますよ。


いぶりがっこだけで、ごはん1杯食べられます」(荒谷さん

荒谷: 県北では、なた漬けでもきゅうりでも福神漬けでも、なんでも漬物のことを「がっこ」というんですよ。

岡本: がっこは、漬物という意味だったんですね。

荒谷: そう。秋田の人は、白ごはんと一緒にがっこを食べる。秋田とか山形は冬のあいだ、食料が気軽に調達できなかったでしょ。だから雪が降りはじめる前に、畑から野菜を持ってきて塩で漬けておくっていうのが、食材を長持ちさせる工夫だったんですよ。

岡本: 塩に野菜を漬け込むのは、保存という意味で発達した。

荒谷: そうですね。秋田や山形はね、そういった塩漬けしたものや発酵食品の種類が多いように思います。岩手や青森の太平洋側は海の幸が豊富でしょ。それから山の幸もあるでしょ。だから冬でも食べる物があるんですよ。でも逆に、青森の方は夏の7月頃にやませの風という冷たい風が吹くんですよ。稲穂ができる時期に冷たい風が吹くもんだから、米が育ちにくいんです。

岡本: そんな違いが。

荒谷: 秋田はどこでも米が育ちます。米が豊富にあったから、きりたんぽにしてみても「米をつぶして食べてみよう」なんてことができたんじゃないかなぁ。だって米を食べられない青森とかにしたら、贅沢極まりない食べ方だと思うんです。

岡本: 確かに。米は豊富にある。でも冬のあいだの野菜がない。

荒谷: そう。それが白いごはんを美味しく食べる工夫へとつながったんじゃないかな。燻してみようだとか、つぶしてみようだとか。大根を「囲炉裏につるす」というのも、考えてみたら大胆ですよね。

岡本: 子どもの頃から、塩漬けや発酵食品なんかは身近にあったんですか?

荒谷: あぁ、当時親が食べるものにね「いさじゃ」っていうのがあってね。アミっていう小さいエビみたいなのを瓶に詰めて塩で発酵させたものなんだけど。これはね「もう、たまらん!」ってくらいに臭いの。くさやより臭いんじゃないかなぁ。

岡本: そっそんなに。ちょっとどんな臭いか気になります。

荒谷: いやぁ、子どもの頃はお茶碗持って隣の部屋に逃げ込んでましたよ。でもそれに合うのが、やっぱりあつあつの白ごはんなんですよ。ここら辺の人はみんなそれが大好きでね。

岡本: 冬のあいだも白ごはんを美味しく食べようと、がっこやいさじゃができたと。

荒谷: そう。私より上の世代の食糧難の時代を経験した人たちなんかは、ひとつのもので、ごはんを食べるという時代でしょ。それがいぶりがっこの原点だという人もいますよ。いぶりがっこだけで、ごはん1杯食べられますからね。

岡本: 荒谷さんのお宅でも、食卓にはいつも「がっこ」が?

荒谷: 私はね、実を言えば漬物をあまり食べない派だったんです。

岡本: えーー!!!

荒谷: はっはっはっ、そうなんですよ。いやぁ、でもね。食べない人間が美味しいと思えるのは、いぶりがっこを食べたことがない人も美味しいと思えるんじゃないかと、勝手に私は解釈しているんですよ。

岡本: 確かに。その発想もありですね。がっこだけでごはん1杯食べれるものもあれば、ガツンとした味が苦手な人でも楽しめるものもある。なんだかいいですね。

大根の種まきの風景。

株式会社秋田白神食品 代表取締役荒谷要伸
西に日本海、北には白神山地が控える豊かな自然に囲まれた町、秋田県三種町。この地で、家業である農業を受け継ぎながら、新たに加工販売も行う秋田白神食品を平成24年に設立。秋田の特産品「いぶりがっこ」の加工用だいこんを年間30万本〜40万本出荷。いぶりがっこを独自の乱切りカットにした「おかずがっこ」など、食べる人の視点に立ったユニークな商品づくりに挑戦している。


コロナ禍のためオンラインでお話を伺いました。
右上から時計回りにケンミン食品岡本、秋田白神食品荒谷さん、他プロジェクトメンバー
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