47都道府ケンミン・焼ビーフンプロジェクト

ほんとうにおいしい玉ねぎは、かじると梨のようにみずみずしい

ほんとうにおいしい玉ねぎは、かじると梨のようにみずみずしい

文:大森ちはる(なりわいカンパニー)
写真:西川遥香(ケンミン食品)

2021年3月、「47都道府ケンミン焼ビーフン」プロジェクトのメンバーで、プロジェクト第3弾「兵庫ケンミン焼ビーフン」を一緒につくっていただく淡路島の玉ねぎ生産者・竹原さんを訪ねました。

じつは、竹原さんの新玉ねぎを焼ビーフンと組み合わせるのは、「47都道府ケンミン焼ビーフン」プロジェクトが始まるより前の2019年からあたためていた企画でした。しかし、淡路島の新玉ねぎのシーズンは春の束の間。「新玉ねぎってこんなにビーフンと合うんや!」と社内がどよめいた2019年春は試作で過ぎ、2020年春はコロナ禍に見舞われ……2021年春、2年越しにようやく実現に至ります。

この日、竹原さんの畑で収穫を待つ新玉ねぎたちを前にして、高村が「淡路島の新玉ねぎとは?」を伺いました。


淡路島の玉ねぎが“あまい”のは、糖度が特別高いからではないんです」(竹原さん)

高村: わたしは明石海峡をはさんで淡路島の対岸にある神戸生まれ神戸育ちですが、正直、子どもの頃は「おぉ、これが淡路島の玉ねぎか。おいしいなぁ」なんて気に留めたことはありませんでした。

玉ねぎ生産者竹原さん(以下、敬称略): そういうものだと思いますよ。しょせん玉ねぎですから。一般の方がふだんの買いものや食卓で産地を気に留める方が、めずらしいんじゃないでしょうか。とくにほら、関西圏だとこの距離ですから、あって当たり前というか、淡路島産といったところで「へぇ」とはなっても「おぉ!」とはなりにくいですよね。

高村: いや、でも、「おぉ!」の記憶もあるんですよ。大学生のときに、キャンプリーダーの活動で南あわじ市の沼島(ぬしま)に行きはじめて、現地の漁師さんに「淡路島の玉ねぎ、食べてごらん」っていただいたんです。それを薄くスライスして、味つけは……醤油くらいかけたかな? 食べておどろきました。「うまい! あまい!」って。

竹原: 嬉しいなぁ。ありがとうございます。やっぱりね、産地・味・おいしさを意識して食べてもらうことで、その食材に対する感性って高まるんちゃうかなと思います。淡路島産と意識して食べてほしい……のは、僕らのエゴというのも承知しつつ。

高村: 淡路島の玉ねぎは、どうしてあまいんでしょうか?

竹原: 品種はたくさんの種類がありますが、西日本一円では同じような品種が植えられています。それでも、産地によって味わいにバリエーションがある。おそらく、一番大きな要因は「土」でしょうね。淡路島は周囲が海なので、海風が常時吹き抜けていて、土壌にミネラル分が多く含まれているんだと思います。

高村: ミネラル分が糖度を高めている……?

竹原: いえ、糖度だけでいうと、北海道などほかの産地と同じか、むしろ品種によっては低いくらいです。糖度が高いというよりは、辛味や苦味の成分が少ないから、淡路島の玉ねぎは旨味がどこよりもあると自負しています。

高村: なるほど。そのあたりの成分のバランスを、土壌や気候がもたらしているんですね。

竹原: はい。でも、もちろん生産者ごとの試行錯誤もありますね。ぼくの家はもともと青果と玉ねぎ加工を営んでいて、玉ねぎ農家ではないんですよ。ぼくの代になってから玉ねぎの生産をはじめたので、つくりかたについては、最初はド素人。淡路島やから植えたらおいしい玉ねぎができるやろうと思ったら、大まちがいでしたね。初期に栽培してできた玉ねぎはおいしくなかった。「こんなまずい玉ねぎが淡路島でつくれてしまうんや!」という感じでした。

高村: 何があかんかったんですか?

竹原: やっぱり、土です。土づくりと肥料と畑の管理。目が覚めました。そこからあらためて成分やバランスの研究を重ねて、現在に至ります。


「おいしい新玉ねぎは、かじると梨のような味わいがしますよ」(竹原さん)

高村: いま、この畑に植えられているのは全部新玉ねぎですよね。玉ねぎづくりのプロから見て、どうやって食べるのが新玉ねぎの一番おいしい食べかたですか?

竹原: まずはシンプルにスライスして、15分くらい空気にさらして–––––水にさらす必要はないです–––––サラダで食べると、玉ねぎ本来のおいしさを味わっていただけると思います。

高村: え、水にさらさない……?

竹原: 水にさらすと、玉ねぎのうまみまで溶け出てしまうので。そもそも、どうしてさらすのかというと、玉ねぎは切られたところから酵素を出すんです。「切られる」のは玉ねぎにとっては「斬られる」と同じなので、酵素を出して一生懸命痛みに耐えたりバイキンと戦ったりする。その酵素が、苦味や辛味の元になります。空気にさらすのは、しばらくそのまま寝かせることで、酵素の働きが弱まるのを待つためです。

高村: 玉ねぎを生のままサラダにするとき、いつもヨコ切りにして水にさらしていました。

竹原: 理論的には、繊維に垂直で切る–––––輪切りにすると、酵素の働きが増えるので苦くなるはずです。繊維に沿って切ることで、酵素の働きを抑えられる。でも、繊維を断ち切って酵素を出しきったほうがいいという人もいるし、諸説あるのが実情かな。とにかく、切ってから15〜20分さらしておけば大丈夫。せっかくですし、ひとつ抜いてみますか?

竹原さんのレクチャーのもと、新玉ねぎの収穫体験をさせていただきました。

高村: この新玉ねぎを乾かすと、皮がアメ色のいわゆる玉ねぎになるんでしょうか?

竹原: 新玉ねぎは、乾燥させると薄い茶色になりますが、アメ色にまではなりません。「新玉ねぎ」に確固とした定義がないのでなんとも言えませんが、基本的に品種が違うんです。新玉ねぎ用の品種は、一般的な玉ねぎよりも水分の含有量が多いのと、1枚1枚が肉厚で食べ応えがあるのが特徴かな。おいしい新玉ねぎは、くし切りを生食すると、梨のようなみずみずしさと甘みがありますよ。

高村: このまま外皮を剥いたら食べられそうですね。かじってみてもいいですか?

竹原:いいですけど、たぶん辛いですよ。抜きたてで元気だから、よけいに……

高村: あまい……けど、あぁ、たしかに辛い。なんだろう、徐々にきますね。辛さが。でも、ふつうの玉ねぎと比べたら段違いにあまいです。このまま食べ続けられるくらいに。「辛みが少ないから、あまみが際立つ」という説明の意味がよくわかります。なるほど、歯ごたえが梨っぽい!

竹原: ぼく自身、抜きたてを丸かじりしたことはないんですが……食べてみようかな。

高村: おいしいですよ、ほんとうに。外側よりも内側のほうが、あまい気がする。

竹原: それは、内側のほうが糖度が高いからですね。どうしても外側にいくにつれて水分量が多くなるので、糖度が低くなりがちなんです。


新玉ねぎは炒めものに向かない?
「それなら逆に、焼きビーフンとの組み合わせは、理にかなっているのかも」(高村)

高村: 生食のときは空気にさらすとのことでしたが、新玉ねぎを熱調理するときにもコツはあるんですか?

竹原: 炒めるときは、切ってからいかに手早く高温で熱するかで、味の出かたがまったく違いますよ。切ってからダラダラして加熱速度も遅いと、雑味が残ってしまう。といっても、新玉ねぎはふつうの玉ねぎに比べて水分が多いので、加工–––––とくにカレーやソース関係には不向きというか、敬遠されがちですね。

高村: 敬遠……なるほど。そうなんですね。我々の焼ビーフンは、ビーフンを食材と炒めていく過程で食材のうまみを吸っていくことが前提にあるんです。だから、はじめて竹原さんの新玉ねぎをいただいたときに、新玉ねぎの出汁–––––あえてそう呼ばせてください–––––がなじんだビーフンがめちゃくちゃおいしくて。水分がネックになるどころか、ビーフンの特性とマッチしているなと思いました。

竹原: 新玉ねぎのうまみが詰まった水分を余すことなく使っていただけて、光栄です。手前味噌ですが、淡路島の玉ねぎの甘みは、砂糖の甘みとは違い、自然でやさしいあまさです。本物の淡路島産玉ねぎの旨みと甘みを味わっていただけると、生産者としてこのうえなく嬉しいです。


竹原物産株式会社 竹原正記社長
昭和20年創業、南あわじ市に本社を置き、自社でも年間800tもの「極味(きわみ)玉ねぎ」を生産する農家でありながら、60軒余りの生産者を取り纏めて卸販売をおこない、自社でオニオンソテーやフライドオニオンなどの加工も手掛け、カレーやドレッシングなどの開発もおこなう、淡路島産玉ねぎの本来のおいしさを伝える玉ねぎ創造企業。(「淡路島の極味(きわみ)玉ねぎ」:慣行栽培品と違い、土壌改良用肥料・生育用肥料にこだわり栽培している竹原物産株式会社独自のブランド玉葱。商標登録第5732825号)

「新玉ねぎ」って何ですか?
本文中にあるとおり、「新玉ねぎ」に厳密なルールはないそうです。今回、「兵庫ケンミン焼ビーフン」では、“その年の春に収穫された”“早生・中生の種”の玉ねぎで、“自然乾燥をさせて速やかに出荷したもの”を「新玉ねぎ」と扱っています。

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